妊娠を望む女性の夏の身体的特徴と注意点(漢方医学的視点を含む)

夏は、自然界では「陽」の気が最も盛んになる季節です。人体も自然の一部と捉える漢方医学では、この時期特有の変化があります。

  1. 身体の熱と「湿邪(しつじゃ)」
    • 特徴: 夏は高温多湿です。体内に熱がこもりやすく(「熱邪」)、また、汗をかきすぎたり、冷たいものを摂りすぎたりすることで、体内に余分な水分が滞りやすくなります。これを漢方では「湿邪」と呼びます。
    • 妊娠への影響:
      • 熱邪: 体内に熱がこもると、体全体のバランスが乱れ、特に「肝」や「心」の機能に影響を与えることがあります。これらは女性ホルモンのバランスや精神状態にも関わるため、月経不順やイライラなどにつながり、妊娠しにくい体質になる可能性があります。
      • 湿邪: 湿邪が停滞すると、体が重だるく感じたり、むくみやすくなったりします。また、子宮や卵巣周辺に湿邪がたまると、血流が悪くなり、着床しにくい環境になる可能性も考えられます。おりものが増えることもあります。
    • 注意点: 体内に熱と湿がこもらないように、適切な方法で熱を発散させ、余分な水分を排出することが重要です。
  2. 消化機能の低下
    • 特徴: 暑さで食欲が落ちたり、冷たいものを摂りすぎたりすることで、胃腸の働きが低下しやすくなります。
    • 妊娠への影響: 消化機能が低下すると、栄養の吸収が悪くなり、全身の「気・血(けつ)・津液(しんえき)」の生成が滞ります。これらは妊娠を維持するための重要な要素であり、不足すると卵子の質や子宮内膜の状態に影響を与える可能性があります。
    • 注意点: 胃腸に負担をかけない食事を心がけ、消化しやすい温かいものや常温のものを意識して摂ることが大切です。
  3. 「気」の消耗
    • 特徴: 汗をかくことは体内の熱を冷ますために必要ですが、過度に汗をかくと、「気」という生命エネルギーが消耗されます。また、夏の睡眠不足や疲労も気の消耗につながります。
    • 妊娠への影響: 気が不足すると、全身の機能が低下し、疲れやすくなったり、免疫力が低下したりします。子宮への気の巡りも悪くなり、着床の妨げとなる可能性も考えられます。
    • 注意点: 適切な休息と睡眠をとり、過度な発汗を防ぎ、気を補う食事を心がけることが重要です。
目次

冷房の使い方

冷房は、体温調節に非常に有効ですが、使い方を誤ると体を冷やしすぎ、漢方でいう「寒邪(かんじゃ)」が体内に侵入しやすくなります。冬の寒さよりも、夏の人工的な寒さの方が、妊娠率は下がります。

  • 設定温度: 26〜28℃を目安に、外気温との差を5℃以内にとどめましょう。体が冷えすぎないように、薄手の羽織ものやひざ掛けを用意すると良いでしょう。
  • 風向きと風量: 風が直接体に当たらないように設定し、風量は弱めにしましょう。特に足元や首元、お腹周りを冷やさないように注意してください。
  • 寝る時の冷房: 寝る時はタイマー機能を活用するか、除湿モードにするのがおすすめです。寝ている間は体温が下がるため、冷えすぎに注意が必要です。
  • オフィスなどでの対策: 冷えやすい場合は、腹巻きやレッグウォーマーを活用し、首元にはストールを巻くなどして、体を冷えから守りましょう。

水分の摂り方

夏は脱水症状を防ぐためにも水分補給は重要ですが、妊娠を望む女性は飲み方に注意が必要です。

  • 常温または温かいもの: 冷たい飲み物は胃腸を冷やし、消化機能を低下させたり、湿邪をため込んだりする原因になります。できるだけ常温か、温かいお茶(麦茶、ほうじ茶など)を少量ずつこまめに摂るようにしましょう。
  • 一気に飲まない: 一度に大量の水分を摂ると、体が冷えやすくなります。コップ1杯程度をこまめに飲むのが理想です。
  • 甘い飲み物は控える: ジュースや清涼飲料水など糖質を多く含む飲料は体を冷やし、胃腸に負担をかけることがあります。カフェインの多い飲み物も控えめにしましょう。
  • 利尿作用のあるものに注意: 緑茶やコーヒーなど、利尿作用のあるものは体の水分を排出してしまいがちなので、摂りすぎに注意が必要です。
  • おすすめの飲み物: 麦茶は体を冷やす作用があるため、その人の体力に合わせた飲み方をすれば夏には適しています。生姜湯や温かいハーブティー(ノンカフェインのもの)なども良いでしょう。

セルフケア:ツボ療法と経絡リンパマッサージ

夏の体調を整え、妊娠しやすい体質へ導くためのセルフケアをご紹介します。

ツボ療法

妊娠を望む女性におすすめのツボです。指の腹でゆっくりと圧をかけ、気持ち良いと感じる程度の強さで10秒ほど押し、ゆっくり離すのを数回繰り返しましょう。

三陰交(さんいんこう): (妊娠中は流産の危険があるので、三陰交への刺激は避けましょう。)

  • 場所: 内くるぶしの中心から指4本分(人差し指から小指まで)上に上がったすねの骨の後ろ。
  • 効果: 女性のホルモンバランスを整え、血行を促進し、冷え性や月経不順に効果的です。子宮や卵巣の機能を高めると言われています。

関元(かんげん):

  • 場所: おへそから指4本分(人差し指から小指まで)下に下がったところ。
  • 効果: 下腹部の冷えを改善し、子宮や卵巣の機能を高めます。疲労回復や生殖機能の活性化にも良いとされます。

気海(きかい):

  • 場所: おへそから指2本分(人差し指と中指)下に下がったところ。
  • 効果: 全身の「気」の巡りを良くし、疲労回復や体力向上に役立ちます。関元と同様に、下腹部の冷え改善にも効果的です。

足三里(あしさんり):

  • 場所: 膝のお皿の外側の下にあるくぼみから指4本分下に下がった、すねの骨の外側。
  • 効果: 胃腸の働きを整え、全身の「気」を補います。夏バテ予防や体力増進にも良いでしょう。

    経絡リンパマッサージ(セルフ)

    特に下半身の冷えやむくみ、血行不良を改善するのに効果的です。お風呂上がりなど、体が温まっている時に行うのがおすすめです。マッサージオイルやクリームを使うと、滑りが良くなり肌への負担も少なくなります。

    1. 足の指から太ももへ:
      • 足の指を一本一本丁寧に揉みほぐします。
      • 足の甲から足首、ふくらはぎへと、リンパの流れに沿って下から上へ(心臓に向かって)優しくさすり上げます。
      • ひざ裏のリンパ節を軽く押してから、太ももも鼠径部に向かってゆっくりとさすり上げます。
    2. お腹周り:
      • おへその周りを「の」の字を書くように優しくマッサージします。
      • 下腹部全体を手のひらで温めるように、ゆっくりと時計回りにさすります。特に関元や気海のツボのあたりを意識すると良いでしょう。
    3. 鼠径部(そけいぶ):
      • 足の付け根にある鼠径部には大きなリンパ節があります。ここを手のひらで優しく押したり、軽く揉んだりして、リンパの流れを促します。
      • 強く押しすぎず、気持ち良いと感じる程度の圧で行いましょう。

    全体的なアドバイス:

    • 冷やさない: 夏でも、お腹、足元、首元など、特に冷えやすい場所は常に温める意識を持ちましょう。
    • 睡眠をしっかりとる: 夏は寝苦しくなりがちですが、質の良い睡眠は体の回復とホルモンバランスの調整に不可欠です。
    • 適度な運動: 軽いウォーキングやヨガなど、体を動かすことで血行促進や「気」の巡りを良くすることができます。
    • ストレスをためない: ストレスはホルモンバランスに大きな影響を与えます。リラックスできる時間を持ち、気分転換を心がけましょう。
    • 食事: 旬の野菜や果物を取り入れ、バランスの取れた食事を心がけましょう。体を温める食材(生姜、ネギなど)も上手に取り入れると良いです。

    これらのケアは、即効性があるものではなく、継続することで徐々に体質が改善されていきます。ご自身の体調と相談しながら、無理のない範囲で取り入れてみてください。心配な症状がある場合は、私どもにご相談下さい。

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